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厳しいルールのもと、それらは生まれる
フィギュアスケートの魅力のひとつとして、スケーターがいかにプログラムのテーマを独創的に表現するか?という指標があります。
演技に使われる曲は、古今東西クラシックや映画のサントラが多いようですが、スケーターはその主役となり、或いは主役と脇役の両方を使い分けたりしながら、プログラム中のストーリーを演じていくのです。
そこでカギとなるのが、振付!
採点基準を満たすため厳しいルールに囚われながらも、これが果たしてスポーツなのか?と思えるくらいドラマチックでエモーショナルな表現が過去には誕生したものです。
今回はフィギュアスケート観戦歴ン年の私が、当時の名演も加味して勝手に選んだ、歴代の振付ベスト10をランキングしちゃおうと思います。
それでは早速、ランキングの発表!!10位~4位
第10位:『マトリックス』・・・ブライアン・ジュベール(FRA)[2003-2004]
振付/ニコライ・モロゾフ
日本の坂本花織選手が使用し、大成功を納めたプログラムですが、私にとって元祖はジュベール選手で、より印象が強いです。
ロシアのアレクセイ・ヤグディン選手が現役を引退し、エフゲニー・プルシェンコ選手の独壇場となったフィギュアスケートの男子シングル界。
2004年のヨーロッパ選手権で、当時無敵のプルシェンコを破ったのが、このプログラムを演じたジュベール選手でした。
高いジャンプ然り、斬新な衣装然り、端正な顔立ち然り。納得の選曲で、仮想空間を生きる天才ハッカーを表現し、インパクトのある旋律をより一層引き立てていました。最後のストレートラインステップに入る前、弾をよけて反り返るお決まりのシーンも忠実に再現。曲の世界観とリンクしているという観点ではピカ1と言えるでしょう。
当時下火となった4回転ジャンプを果敢に演技に入れ続けた攻めの姿勢も、戦士ネオに通ずるものがあり、見事!ランクインです。
第9位:『ビバルディ/四季』・・・ステファン・ランビエール(SUI) [2005-2006]
振付/サロメ・ブルナー
同じくプルシェンコ覇権下でしのぎを削った戦士・ランビエール選手。今ではランビエール・コーチと呼ぶ方がしっくりくるでしょうか。
世界選手権2連覇のワールドチャンピオンであらせられたランビさん。代名詞は高速かつ雅やかなスピンですが、この『四季』はステップと繋ぎの部分が私には響きました。
「冬」の北風に始まり、「夏」の雷鳴、「春」の牧草。季節がスイッチするタイミングはじっくりと観客を惹きつけ、いよいよクライマックス「夏」の嵐へ。このストレートラインステップはランビさんの色っぽさ艶っぽさを存分に発揮する独創的な振り付けで、全ての情熱を注ぎ込んだんじゃないかってくらい躍動的で猛々しくて・・・そこから締めのスピンまでは会場の拍手と歓声が鳴りやみません。ぜひ一緒に熱狂していただきたいです。
第8位:『プッチーニ/トゥーランドット』・・・太田由希奈(JPN)[2002-2003]
振付/トム・ディクソン
荒川さんの『トゥーランドット』があまりにも有名なので、ちょっと言い出しにくい感はあるのですが、あくまでも私のランキングなので思い切って。
太田由希奈さんはフィギュアスケート・ファンにはお馴染みの人気スケーターです。優雅で清楚で、指先まで美しいとは、この方のためにあるような言葉で。世界ジュニアで優勝、四大陸も制した姿が強く記憶に残っていますが、その後大けがを負い、引退。確実に獲るであろうタイトルを取らないままの引退を誰もが惜しみました。
その世界ジュニアで優勝したときの『トゥーランドット』。この曲にイナバウアーが似合うのも、彼女のスケーティングが印象深かったせいかもしれません。
もちろん、荒川さんが2004年と2006年に選んだ『トゥーランドット』もモロゾフ先生作ですからホントにホントに素敵ですし、宇野昌磨選手がシニアに殴り込みをかけたシーズンの『トゥーランドット』も全身がシビれる思いでしたが、私にとっては太田さんの好演が先だったので、彼女の持ちプログラムとしてランクインです。スローで見て尚、その凄さがわかるラストのスピンの美しさに、皆さんもたっぷりと酔いしれてください。
第7位:『チャイコフスキー/白鳥の湖』・・・浅田真央(JPN)[2012-2013]
振付/タチアナ・タラソワ
ソチ五輪の前年。
フリーに選んだのはバレエの名曲『白鳥の湖』でした。
大人になった真央選手が、一挙手一投足・一瞥で観客を魅了する・・・電流が走るような感動を覚えるプログラム。随所随所に見せる白鳥の羽ばたきが本当に美しくて。
圧巻なのは黒鳥オディールのフェッテを再現した終盤のストレートラインステップ。
バレエではプリマドンナが片足で32回転する一番の見せ場を、真央選手が氷上で表現してくれました。
曲とのシンクロ、音楽の盛り上がりに呼応する振付、そしてフィニッシュポーズ。
真央選手も、自分の技術を存分に見せられる演目・・・と語っていたことを覚えています。タラソワ先生と真央選手、まさに2人の天才が生み出した奇跡の作品と言えます。
第6位:『ザ・シルクロード・アンサンブル』・・・デニス・テン(KAZ)[2014-2015]
振付/ローリー・ニコル
2014-2015シーズン、デニス・テン選手絶頂期のフリープログラム。
特に四大陸選手権での演技はフィギュアスケート史に残る名演となりました。4回転を含むジャンプを次々と成功させ、音楽の高まりと共に激しさを増す終盤のステップ。独創的な踊り。韓国にルーツを持つ東洋系の彼が、シルクロードをテーマに演じる。オリエンタルな動きを表現しきる。全身に鳥肌が立ちました。
演技終了後、精魂尽き果ててリンクの上に倒れ込むテン選手を、途切れのない大音響の歓声が長く包み込んでいました。
このときの得点が191.85。羽生選手ですらまだフリー200点に手の届かなかった時代ですから、いかに世界が驚愕したかがわかります。
第5位:『ダルタニアン』・・・フィリップ・キャンデロロ(FRA)[1997-1998]
振付/ジュゼッペ・アリーナ
日本が今のようにフィギュアスケート大国になった背景に、観客を味方につけたという意味で多大な功績を残したこの方。フィリップ・キャンデロロ選手。
一流アスリートでありながら稀代のショウマン。
その集大成ともいえるこの『ダルタニアン』は正直、コンペ用とは思えないほど、エンターテイメント性に長けたプログラムです。
剣をさばきながら前進していくストレートラインステップに魂射抜かれた方は多いはず。
この殺陣(sword action)を取り入れた振付は時折登場しますが、キャンデロロさんの三銃士を知ってしまった以上、どれも色褪せて見えます。
観客への挨拶まで粋で妖艶で・・・。当時シャイだった日本人のフィギュアファンがリンク上のスケーターに向かって黄色い声援を送るという快感を知り、それが選手に対するマナーであることを学びました。このダルタニアン風の会釈はエキシビションでも男性メダリストたちがこぞって真似をし、ブームになりましたね。
振付に合った編曲(編曲に合った振付?)に背筋がゾクゾクする思いを堪能していただきたいです。
第4位:『リバーダンス』・・・本郷理華(JPN)[2014-2015]
振付/宮本賢二
日本が世界に誇る振付師のお名前がここでようやく登場いたしました。
宮本先生の振付、神です!
本郷さんにとって『リバーダンス』はまさにオハコ。現役時代に2シーズン、この曲をフリーに使用していました。
最初に見たときの衝撃といったらアナタ!!
リバーダンスなるものを知らなかった私ですが、一瞬でこのプログラムの虜になりました。その後本場本物のタップダンスを映像で見てからはますます「ん~、なるほど!!」と腑に落ちて、以来本郷さんの『リバーダンス』はフィギュア史に残る傑作として私の中に刻み込まれました。
最初から最後まで引き込まれるのですが、やはり一番の見せ場は曲の盛り上がりと共に両手を広げてジャッジ席に迫っていく終盤のあのステップでしょう。観客も心の底から「おーーーー!」と叫ばずにはいられない、立ち上がらずにはいられない・・・本郷さんの長い手足と表現力が最高にマッチして・・・宮本先生、ボキャブラリーが追い付かないです笑。
ベスト3に行く前に、番外編
フィギュアスケートの歴史を語る上で、忘れてはいけない(いけない、ってことはないけど)昔の名作をここで紹介いたします。これらはランク付けするのも恐れ多い、アンタッチャブルなプログラムと言えるでしょう。
まずは、
『ビゼー/カルメン』・・・カタリナ・ビット(GER)[1987-1988]
女子フィギュアスケート界の元祖「銀盤の女王」、カタリナ・ビットさん。当時東ドイツだった彼女のカルガリーオリンピックでの演技です。
北京五輪のときにNHKで過去のプレイバックとして映像が流れていましたね。
類まれなる美貌、深紅の衣装、もういでたちそのものが恋多き女・カルメン。スピン、ステップも独創的で、リンクの上に倒れ込み死に絶える衝撃のラストシーン。
今見ると、ジャンプの難易度はさほど高くはありません。彼女が飛んだ3回転はファーストジャンプでトゥループとサルコウのみ。一方、同じオリンピックに出場していた伊藤みどり選手はセカンドジャンプが3回転のコンビネーション2つ、ルッツ・フリップを含む全5種類の3回転を成功させ、それでも、ビットさんには敵いませんでした・・・コンパルソリのビハインドも影響したとは言え。当時は(今もかな?)フリーの場合、同スコアなら芸術点が勝った方が勝ち、というジャッジでしたからね。まあ、ビットさんもみどりさんも、後世まで語り継がれるフィギュア界の伝説であることに変わりはありません。
『ラヴェル/ボレロ』・・・ジェーン・トービル/クリストファー・ディーン(GBR)[1983-1984]
ここにきて初めてアイスダンスのプログラムが来ました。
おそらく、この先どんなにフィギュアスケートの歴史に新たな伝説が加わろうとも、名演として筆頭に挙げられるのがトービル/ディーン組の『ボレロ』でしょう。
プログラム冒頭、二人はリンクに膝をついて向かい合うところから演技をスタートさせます。
スケートの刃が着氷しなければ演技時間の時計は止まったままということから、この演出が生まれたと伝え聞いています。ストーリーを表現する上で、決して外すことのてできなかった要素である、とも。
ボレロの淡々としたリズムとは裏腹な劇的な表現が次々と繰り広げられますが、特にクライマックスのリフトは筆舌に尽くしがたい美しさです。
この演技はジャッジ全員が芸術点に満点をつけたことで後世に語り継がれることとなりましたね。名演が生まれた場合、演じた選手たちに敬意を表して同じ曲は使わない、というフィギュア界の暗黙のルールに則り、『ボレロ』はその後何年にもわたり誰も選曲しなかったという最上級のリスペクトが寄せられました。
私の記憶が正しければ、トップ選手でその後『ボレロ』を使用したのは2004年のミシェル・クワンさんが最初ではないかと。
実に20年もの長きにわたり、フィギュア界に制約を課すこととなった伝説のプログラムです。
それでは、ランキングに戻りましょう。
フィギュアスケート振付歴代No1ランキング!! 3位~1位
第3位:『リスト/愛の夢』・・・浅田真央(JPN)[2010-2011]
振付/ローリー・ニコル
浅田真央選手、2つ目のランクインです。
私は元々女子シングルが好きでフィギュアスケートを観るようになったわけですが、振付という意味では特別な感情を持てるプログラムに巡り合ったことがありませんでした。
それでも真央選手の現役後半のプログラムは、彼女の表現力の成熟に伴って振付師の先生たちも「マオにやってもらいたい!」というかねてよりの思いをこぞって寄せたとも思える力の入れ様で、名作が次々と生まれました。彼女ほど技術と表現力が高い場所で融合した選手はいませんでしたからね。
真央選手ばかりランクインさせると偏ってしまうので泣く泣く圏外としましたが、『月の光』や『仮面舞踏会』も捨てがたい上位作品です。
その中でもこの『愛の夢』2011シーズンバージョンを選んだのはびっくりを通り越してショッキングともいえる構成が要因となります。
天からの恵みを満面に湛えたかのようなストレートラインステップに見とれているうちに演技はまさに終わろうとしていますが、規定要素であるスパイラルをまだ演じていないことに私たちは焦りまくります。
「えー、真央ちゃん、まだ終わっちゃダメだよ~!」と思った次の瞬間、最後の最後にスパイラル~・・・。うっそ!!そこで!?
この要素で演技を終えたプログラムがかつてあったでしょうか。もう度肝を抜かれすぎて、腰を抜かしてしまって・・・。史上最大のサプライズともいえる振付で、ベスト3にランクインとなりました。
第2位:『ニーノ・ロータ/道』・・・高橋大輔(JPN)[2009-2010]
振付/パスカーレ・カメレンゴ
バンクーバー五輪で高橋選手が銅メダルを獲ったプログラムです。
綱渡りやジャグリングなど奇想天外な大道芸を盛り込んだ道化師の物語。
見慣れた感を微塵も感じさせない振付の数々に、観客はもちろんのこと、選手たちも強い憧れを持ちました。これ以降、カメレンゴ先生には振付の依頼が殺到!
一番の見せ場は、私的にはジャッジの方に手を差し出すシーン。お花でも渡したのかな?うっとりとキュンキュンとがもう交じり合って(笑)・・・。
この演出、高橋選手は女性ジャッジを目掛けてやっていたということで、バンクーバー五輪のときは本懐を遂げたものの、その後の初優勝した世界選手権では女性がいなくてしかたなく男性ジャッジにやっていたという後日談もありました。
ぜひ、感激と感動を堪能あれ!
第1位:『Bond/Winter』・・・アレクセイ・ヤグディン(RUS)[2001-2002]
振付/ニコライ・モロゾフ
往年のフィギュアスケート・ファンならば、これを1位に選んで異論の唱える人はいないのではないかと(笑)。
これがショートプログラムであっただけに、あっという間に終わってしまう奇特な作品という意味でもダントツの1位だと思います。
最大のサプライズは、スケート靴のブレードでリンクの氷を削り、それを拾って天にキラキラと舞い上げるという演出。練習中に女の子が転倒し、ヤグディン選手が氷を削り取って彼女の足を冷やしてあげたことでこの振付が生まれたと語られています。プログラム中に3度、このシーンが生まれますが、節目節目をドラマチックに演出していますよね。
更には終盤のストレートラインステップ。トゥを立てて踏むステップも当時は斬新で、この要素に格別な力を入れるとプログラムが見栄えするという都市伝説(?)が現在に至るまで確立したように思います。私は中盤のサーキュラー・ステップの方が好みなんですけどね。
ヤグディン選手の圧倒的な成功も相まって、当時はモロゾフ先生でなければ世界は獲れないぐらいの人気振付師になってました。
特に、ソルトレーク五輪ではまさにKing of Winterの名声を後世に伝え残す、完璧な演技!
解説の樋口先生が、「素晴らしい」と「素敵」以外言えなくなっていくのがわかります。民の語彙を根こそぎ奪ってしまう、圧巻の2分40秒をお楽しみください!
あとがき
今回選んでみて改めて感じましたが、ひと昔前のものが多いですよね。
近年は高難度のジャンプや、それをパーフェクトに演じることに感動を覚えますが、振付という意味で衝撃を受けるプログラムには出会っていない気がします。
私の目線が変わってしまったのでしょうか。それとも新たな題材、振付は出尽くしてしまった・・・?
いや。そんなわけはないですよね。
毎年新たなプログラムをお披露目してくださる振付師や選手のみなさんには、感謝しきりです。
来シーズンはこのベストテンに食い込む新たな作品が誕生することを願っています!
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