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フィギュア・スケーター小塚崇彦選手の現役引退に寄せて:最も印象に残る戦い

小塚選手と言って真っ先に思い出すのは、彼の肩書の筆頭に掲げられる「2011年世界選手権銀メダル」を獲得したときの痺れる滑りです。当時綴った観戦記を再掲し、彼の長年の多大なる功績に敬意を表したいと思います。

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強く記憶に残る美しいスケーター

小塚選手が現役引退を発表しました。
まだまだ少年だった頃から応援していましたのでとても悲しく、残念です。もっともっと見ていたかった・・・。

小塚選手と言って真っ先に思い出すのは、彼の肩書の筆頭に掲げられている「2011年世界選手権銀メダル」を獲得したときの痺れる滑りです。

未曾有の惨事、東日本大震災が起こり、東京で予定されていたフィギュアの世界選手権は開催中止。モスクワへと場所を移し、1ヶ月遅れで開かれることとなります。日本中が悲しみに暮れ、スポーツに希望の光を見出そうとした私たちはこの大会で次々と脱落していく男子選手たちを目の当たりにすることに・・・。そんな中、小塚選手が日本人選手として最後にリンクに上がり、選手やファンを絶望の淵から救い出してくれたのです。小塚選手の経歴だけに収まらず、私のフィギュアスケート観戦歴の中で最も感動した場面のひとつとして印象に残る光景となっています。

当時書き綴った「2011年世界選手権男子シングル感想」をこちらに転載し、小塚選手の長年の日本男子フィギュア界への多大なる貢献に敬意を表したいと思います。

2011世界選手権男子シングル―小塚くん、男だ

April 29. 2011 14:46:14

昨晩終了した男子フリー。
上位10人を記すとこうなりました。

  1. Patrick CHAN CAN 187.96 96.44 91.52
  2. Takahiko KOZUKA JPN 180.79 98.53 82.26
  3. Artur GACHINSKI RUS 163.52 85.66 77.86
  4. Brian JOUBERT FRA 156.38 80.80 75.58
  5. Michal BREZINA CZE 156.11 83.19 74.92
  6. Daisuke TAKAHASHI JPN 152.72 71.64 82.08
  7. Florent AMODIO FRA 152.04 74.98 77.06
  8. Richard DORNBUSH USA 151.88 78.24 73.64
  9. Nobunari ODA JPN 150.69 72.25 78.44
  10. Javier FERNANDEZ ESP 149.10 84.32 65.78

10位:フェルナンデス(149.10)

4T、4S。二種類の四回転に挑み、成功させました。
第2GPでの登場でしたが、この位置でクワドふたつの選手が登場すると言うのも今シーズンの象徴のように思えました。更には3Aもふたつ組み込まれるタイトな構成にも、コーチの期待にしっかりと応えようとする姿は素晴らしかったです。
SPに引き続きコミカルな演技は正直見飽きてしまった感が個人的には。
来季は違った顔を見せて欲しいと切望します。

9位:織田くん(150.69)

冒頭の4Tが3回転になってしまったものの綺麗な3T-3Tが完成。
続く3A-3Tも決まり、フリップも成功。
ステップに入ったところで3Tみっつ飛んだ事実に気付いたものの、このパターンは初めてだったので、果たしてルール違反なのかどうかわからないまま不安だけが渦巻いて全くその後の演技は記憶にありません。
演技終了したところで杉田先生が重い口を開き、やはりやってはいけないミスを冒したと確信した訳で・・・。
全13要素の中で最も高い得点源となる筈の3A-3Tが無かったことになりました。

8位:ドーンブッシュ(151.88)

全米選手権で観客を魅了した演技そのままに素晴らしい内容でした。
スターティングポーズから顔までホームズに成りきる入れ込みように、「曲の解釈」で8点台の評価をするジャッジも。途中サルコウが2回転になるという一幕もありましたが、4回転がない分最も困難なアクセルで3-3コンビネーションを完成させたのが一番の見せ場でしたね。

7位:アモーディオ(152.04)

最終滑走者。いつも通りの美しい姿勢に安定したジャンプですが、ごめんなさい、ちょっと霞んで見えてしまいました。ユーロでは自分の庭であるかのような振る舞いでしたけれども、この日はそうも行きませんでした。
とは言え、得点的にはほぼベストの出来。
欧州王者という肩書きがなければ、もっと違う見方が出来たのかもしれません。

6位:大ちゃん(152.72)

衣装も新たに登場し、世界中の期待を一心に集めての演技が始まります。
が、クワドを踏み切ったところで滑走を辞めてしまいました。靴とブレードを繋ぐビスが外れたというアクシデント。
リンクサイドに戻り、応急処置をして氷に戻りますが、急造ブーツで演じられる程生易しいものではないことは百も承知だったでしょう。そんな中、大ちゃんは気丈にも演技を再開させました。情熱のダンスを。
着氷できるジャンプがあることの方に驚きましたけれども、サルコウ飛んだときに耐えきれずとうとう転倒。
自身のキャリアを締めくくる舞を演じる場と決めていた今季のワールドだったでしょうが、諸事情にて場所がモスクワに移ったときから、大ちゃんにとってはここは最後の場所とすべきではないことが運命づけられたのかも知れません。もし許されるのならば、新しい千秋楽を自ら準備して欲しい・・・勝手ながらそんな風に願っております。

5位:ブレジナくん(156.11)

彼もトゥとサルコウ、ふたつのクワドを用意していると言うこと。予選では飛べなくて、悔しい通り越して恥ずかしかったブレジナくん、汚名返上なるか。
まずは杉田先生をも唸らせたトリプルアクセルから。続いて4T、立て続けに4S、どちらも成功です。うれしーっ。
コーチに止められていたクワド、この大舞台で華々しく披露できて良かったね。その後も美しいスピンとコミカルでドラマチックなステップ、ジャンプも次々と決まって、パーフェクトのフィニッシュがよぎったその瞬間・・・最後の2つのジャンプに致命的なミスが出てしまいました。ルッツは高さが足りなくて両手つき、フリップは軸が傾いて転倒。ううーっ・・・。第3GPでの登場でしたから、まだこの時点ではその事の重大さに気付いてはいませんでしたが、実はこの瞬間初めてのワールドメダルが彼の手からこぼれ出てしまっていました。
クワドをふたつ入れることのリスクを痛感させられた演技でありました。ただ二度転倒でも貫禄の150点超は来シーズン以降に嬉しい財産ですね。これから半年もの間、貴男を見られないなんて本当に寂しいです。来季は絶対に怪我しないでね。

4位:ジュベール(156.38)

なんとも鮮やかな水色の衣装。いつも角張ったメカニックでハードな出で立ちだったジュベがこんなに柔らかい衣装を身につけるなんて。そして新境地を開拓するクラシック、ベートーベン。

もう忘れてしまいそうだったほどに久しぶりな完璧なクワドが決まります。鳥肌。予定では続けて4Tの筈でしたが、回避して3回転にしました。そしてジャンプが美しく精密にどんどん決まりました、3A-2T、3Lz、3A、3S-2T・・・と、3Lo-3Tのセカンドジャンプが着氷乱れたものの、これほどまで完璧にジュベが演ずるのはいつ振りか思い出せないほどです。

最後、ジャッジの前でスピンしているときに、ISUとWorldsのマーク以外の模様がリンクについているのに気付きました。小さな赤い点々・・・これ何のマーク??と思っていたら、ジュベがガッツポーズで演技を締めくくった後にその正体がわかりました。ジュベは演技中に手をざっくりと切っていました・・・うぅっ・・・その痛みを気にも留めず、会心の演技に大きな手応えを感じているジュベがとっても素敵でした。
得意の近代的で機械的なキャラクターを脱ぎ捨て、新しい挑戦をしている姿も感動で一杯でした。
杉田先生は「彼本来のエネルギッシュさが欠けている」と酷評でしたけれども、私は100%支持派です。

3位:ガチンスキー(163.52)

いきなり母国開催の重荷を背負う羽目になった17歳の彼ですが、そのプレッシャーを力に変える能力の持ち主でありました。冒頭4回転に成功すると、その後の難しいジャンプも何のその、一気にラストまで駆け抜けて行きました。本当にその強心臓には驚きましたし演技も終始パワフルではありましたけれども、演技構成点に77点はちょっと与えすぎで、ここまであからさまな地元点には正直白けてしまいました。

だーかーらー・・・

ブレジナくんが二度転倒してしまったことが、ここでこんな波紋を呼んでしまいましたよ。

万雷の拍手を受けるガチンスキーがキスクラに戻る瞬間にマイクが拾った大きな声「アルトゥール!」は、タラソワ先生の声じゃなかったでしょうか。会場は大変な盛り上がりでした。

2位:小塚くん(180.79)

日本人最後に登場した彼。

私の目には、氷壁に滑落した二人の仲間の命綱を体に巻き付けながらスターティングポーズを取っているように見えました。ここで小塚くんまでもがコケてしまったら、三人揃って奈落の底へ堕ちていくことは間違いありませんでした。小塚くんに託されたのは、自分自身納得の演技なだけではなく、前の日本人選手二人の思いがけないアクシデントを払拭し、チャンの独走を食い止める、全世界に訴えかけるものでなければなりませんでした。

そんな身勝手な思いが届くとは正直信じていませんでした。

・・・が、そんな思いでガチガチに緊張しまくっている私達のことなどお構いなしに、小塚くんはあっさりと流れるように4回転を決め・・・トリプルアクセルを決め、3-3を決め、いかなる着氷も微動だにすることなく、全ての要素を完璧に成功させたのでした。曲は親子三代の思いが詰まったリスト。スピードも情感も、とにかく全てが圧倒的で。

もう、信じられませんでした。応援している選手が、緊迫の場面でパーフェクトの演技を見せてくれるのは実に10年振りの快挙です。

要素点、98点!!!

見たこともないような得点が映し出されました。全身が心地よく痺れて、ついさっき187点なんていう点数見て敗北感に打ちのめされたことも全て忘れました。

天晴れです、小塚くん。

1位:Pチャン(187.96)

今回は彼の優勝で納得です。

クワドなしでも勝てる上背がある彼がこの大技を獲得したおかげで、再びスリリングな時代が到来しました。その功績は大いに称えたいと思います。そして貴男が圧巻の演技をしてくれたお陰で、小塚くんの要素点が更にその上を行ったときの爽快感が増大しました(嫌み?)
だってさ~、小塚くんとPCSで10点も差あるってどういうこと?チャンの場合、要素で明らかなマイナスがあると、PCSでその分そっと補うという「袖の下」があるのではといつも疑ってしまいます。
何はともあれ、記録は破られ、歴史は塗り替えられてしまいました。

最終順位、改めて上位10人のみ

FPl.NameNationPointsSPFS
1Patrick CHANCAN280.9811
2Takahiko KOZUKAJPN258.4162
3Artur GACHINSKIRUS241.8643
4Michal BREZINACZE233.6175
5Daisuke TAKAHASHIJPN232.9736
6Nobunari ODAJPN232.5029
7Florent AMODIOFRA229.6857
8Brian JOUBERTFRA227.6794
9Richard DORNBUSHUSA222.42118
10Javier FERNANDEZESP218.261410

男子のみなさん、お疲れ様でした。


・・・当時はPチャンの盛盛点が相当不満だったのでドギツイこと書いてますね~・・・(笑)
今では納得し、敬意を表しています。

小塚選手、選手生活お疲れ様でした。
感動とパワーをありがとうございます。
今後の人生がますます成功の場となりますよう心よりお祈りしています。

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